<本編の登場時人物>
<本編の登場時人物>
小林幸さん(株式会社八葉水産)
1983年東京都出身。多摩美術大学環境デザイン学科卒業。卒業後はデザインとプランニングを行う事務所に就職。その後フリーランスのデザイナーや飲食店勤務を経て、2014年8月、被災した気仙沼で活動。現在は気仙沼の水産会社である株式会社八葉水産に入社し、商品開発等を担う。
牧大介さん(株式会社西粟倉・森の学校 代表取締役)
1974年京都府生まれ。京都大学院能楽研究科修了。2006年地域再生マネージャーとして西粟倉村に赴任。09年株式会社西粟倉・森の学校を設立。代表取締役校長として移住者の雇用や起業支援に取り組む。
齋藤寛之さん(有限会社大橋量器)
愛知県あま市出身。愛知淑徳大学ビジネス学部卒業。学生時代のインターンシップで大橋量器と出会い、そのまま就職を決意。大橋量器は岐阜県大垣市にある創業1950年の「枡」を専門に制作する企業。社内初の営業専属社員として就職し、ローカル鉄道とタイアップした枡酒列車の全国展開や全国の催事の責任者などを担当。
<ファシリテーター>
宮城治男(NPO法人ETIC. 代表理事)
1993年より、若い世代が自ら社会に働きかけ、仕事を生み出していく起業家型リーダーの育成に取り組み、400名以上の起業家を支援。長期実践型インターンシッププログラム、社会起業塾イニシアティブ、地域における人材育成支援のチャレンジ・コミュニティ・プロジェクトを実施。全国60地域に展開。11年より東北震災復興支援も行う。
東京から気仙沼の水産加工会社へ転職した美大出身のデザイナー
小林:株式会社八葉水産から参りました小林ともうします。八葉水産は宮城県の北部、気仙沼市にある水産加工品のメーカーで、気仙沼で水揚げしたイカを使った塩辛や、三陸のワカメや海産物を使った珍味などが主力商品です。八葉水産も被災し、5つあった加工場は全て津波に流されてしまいました。そんな状況でしたが、社長はすぐに復旧に取り掛かり、これまでに3つの工場を再建しました。従業員数は震災前の約半分、生産量は震災前の水準にまだ戻っていませんが、関東以南エリアまで商品を流通させるところまで回復してきています。
(八葉水産の主力商品の一つ)
八葉水産は震災前からおもしろい取り組みを進めていまして、例えばイカ男くんというキャラクターをつくったり、みちのく塩辛というオリジナル商品を開発したりしていました。これは三陸産のイカに地元の塩と秋田のしょっつるや青森のリンゴを合わせた東北の美味しさを詰め込んだ塩辛です。販売開始から1か月経ち、順調にみえたその時に地震が起きて、幻の商品になってしまいました。
私は東京出身でデザインを専攻し、2014年から東京と気仙沼を往復しながらこの仕事に携わり、この夏に八葉水産の社員になりました。主に商品開発を担当しておりまして、このみちのく塩辛も、より付加価値の高い商品にしようということで、パッケージも新たにリニューアルして販売を再開しました。おかげさまで順調に販売しています。
宮城:小林さんは東京の美大で美術の勉強をされていたんですよね。どんな商品開発をされているのかは、後ほど詳しくうかがいたいと思います。
宮城:仕掛け人の方々に、自己紹介と事業のお話をいただきました。大変な逆境のなかで経営革新など新しいチャレンジに取り組まれていることが、仕掛け人のみなさんに共通していますね。あるいは逆境だからこそ、こうした高い意識をもった人たちがいるのかもしれません。そういった挑戦者たちがいる地域に、血気盛んな若者たちや、経営能力の高い人たちが集まり始めているのだと思います。
後半ではまず、林業の再生という困難な課題に取り組む牧さんに、六次産業化という切り口でお話をうかがってみたいと思います。
困難な林業の六次化、未経験だけど常識にとらわれない情熱あるメンバーで挑む
牧:西粟倉・森の学校では、林業の六次産業化を進めるための工場と、販売チームを持っています。木は一本一本、その性質が異なっていて、同じ木でも先と根本で全然違うんです。マグロでいう赤身やトロみたいなものですね。一本の木を切り分けてお客さんに最終製品として届けるまでには、とても複雑なプロセスがあり、そのことが林業の六次産業化を困難にしています。それを敢えてやるから、チャレンジなのですが。
そもそもなぜ林業の六次化が必要かといえば、これを実現すると物流コストが大幅に下がって、収益性がすごくよくなるわけです。さらに商品開発を工夫することにより業界平均よりずっと単価を引き上げているので、結果として利益率が高くなりました。
今までの林業では、製造から加工、販売までを全部地域でやってしまうなんてありえないと思われていました。うちの工場では十数名のスタッフが働いていますが、私を含め木材加工の経験者はゼロです。木材販売の経験者もいません。まったく常識にとらわれない情熱ある人たちが3年間死に物狂いでやってきた結果、きわめて付加価値と収益性の高い事業がうまれました。どんなに難しそうなことでも、やってやれないことはないな、という手応えを感じています。
宮城:ありがとうございます。続いて小林さんにうかがいたいのですが、震災以前の約半分くらいの規模まで復興してきた八葉水産は、どんな点に工夫してこられたのでしょうか。
被災による販路喪失を乗り越え、新しい価値を提案するブランドづくりに挑戦
小林:まずひとつは、社員みなで必死になってやってきたという事です。震災によって商品が出せない時期があったため、かなりの販路が失われてしまいました。それをなんとか震災前の状況まで戻そう、という思いがありました。ふたつめは、商品開発ですね。震災前からある商品を同じように売っても売れるとは限りません。商品が復活したので販売しましょうというのではなく、商品が並ぶ食卓やシーンを想像して、商品を楽しむシーンを丁寧に提案することが大切です。例えば冷蔵庫に入ったときのサイズ感等、そういった細やかなところに配慮して商品に反映するということに取り組んでいます。そして新しい価値をもったブランドをつくること。八葉水産を含めた4社で営んでいる「気仙沼水産食品事業協同組合」があるのですが、この団体でこれまでと違ったターゲットや販路に対して、三陸の食材を使った新たな商品を送り込んでいます。
宮城:被災からいちはやく復興した企業には、お客さんとの関係を紡ぎなおすことに取り組んだ方々が多いですね。小林さんのような人が商品をデザインしなおして、お客さんとコミュニケーションをとっていく。そういった事業に魅力を感じ、さらに若い人たちが集まってきているようです。次は斎藤さんに、地場産業に就職した立場から、中小企業の魅力や大変さなどお聞かせいただきたいと思います。
家業から企業への進化の過程で社長のそばでフォローしたい
斎藤:一年ちょっと働いてみて、大変なことも結構ありました。色々整っていなかいこともあるし、そもそも人が少ないので、自分の役割も多岐にわたり毎日が大変です。そんな状況ですが、枡という難しい業界において、うちの会社は売上がちょっとずつ伸びていますし、僕の後にも新卒がはいってきました。会社としては、家業からから企業へと進化しているというか、すごくいい流れになってきていると思います。僕は攻めに特化した社長のそばで、なかなか手が回らない調整や細かなフォローをしていきたいと思っています。最近は少しずつ手応えが出てきて仕事が楽しいですね。
宮城:ありがとうございます。仲間を巻き込んでいくうえで、経営者の意識の変化は大切ですね。斎藤さんが参画することで刺激を受けて、経営者の側の意識が大きく変わったのだろうと思います。そこにまた後に続く若者が巻き込まれていく、という流れがみえます。最後に牧さんにお一言いただければ。
牧:私自身もそうですが、新しい価値を生み出したり、経営の変革を担ったりする人は、大抵わがままです。そんな人が集まって仕事をするわけなので、お互いを信用できる関係、例えばどうしても納得いかないことは納得いかないと言えるような関係づくりが重要です。そういった率直なコミュニケーションができる組織は幸せで楽しい会社、ひいては地域をつくっていくことができると思います。
宮城:壇上のみなさんのお話を参考にしつつ、今日のこの場が新しい仕事や生活を地域でつくっていく、そのステップを刻むよい機会になればと思います。パネリストのみなさん、本当にありがとうございました。