株式会社今治.夢スポーツ 取締役 矢野将文氏
‐これまでのご経歴と、FC今治と出会うまでについて教えてください。
出身は愛媛です。愛媛の中学・高校でずっとサッカー部に所属し、東京大学に入学してもサッカーを続けて最終的には主将も務めました。
ゴールドマン・サックスへは新卒で入社して、10年間、証券マンとして営業の仕事を行っていました。転機はサブプライムローン問題に端を発したリーマンショック。証券業界全体が混乱期に入り、そのタイミングで私はゴールドマン・サックスを去ることになりました。
岡田監督に出会ったのはゴールドマンを辞めてから5年後ぐらいです。ゴールドマンを辞めてからは農業の勉強をしたり、林業を学ぶために大学院に通ったり、あとは友人の起業を手伝ったりもしていましたね。この5年間は模索期だったと思います。モヤモヤと考えながら、「何をしたら面白いんだろう」と色々とやっていました。今振り返ると、この模索期は非常に大事だったなと感じます。この5年間が無かったら、今、これだけがむしゃらに楽しく勉強させてもらっているということは無かったかもしれません。
‐岡田監督と出会って、今治.夢スポーツに参画を決めたきっかけはどのようなものでしたか?
大学の先輩に呼んでもらって岡田さんとお会いする機会があったんです。そこから今治.夢スポーツにお誘いをいただいたのですが、その時に岡田さんから「人間は一生のうち逢うべき人には必ず逢える。しかも一瞬早過ぎず、一瞬遅すぎない時に。」という森信三さん(哲学者)の言葉を言われたんです。私自身、プレイヤーとしてずっとサッカーをやっていましたが、ビジネスにすることは無いと思っていました。ですが、たまたま少し前に本でその言葉に出会っており、しかもそれを岡田さんから言われて「これはご縁だな」と直感的に感じ、参画を決めました。
「創っていく側」の面白さ。
‐今治.夢スポーツに参画されて、前職の仕事との違いはなんですか?
「自分が決めたものが世の中に出ていく面白さ」を感じながら仕事をしているというところです。大企業は仕事の範囲が決まっていますが、今の仕事は「そもそも、これをどうやって”仕事”にするか」ということから始めなければなりません。誰とパートナーシップを組むのか、誰にパスを出せばいいのか、何を目指すのか。そうしたことも全て自分たちで考えていかなければならないのが今の仕事です。前職では、「全員が同じ環境を与えられて、その中でいかに一番を取るか」という世界でした。前職でも面白みはもちろんありましたが、今の「全体観をもって仕事が出来る」面白さや、逆に自分の仕事が組織に全てが跳ね返ってくる緊張感やプレッシャーを感じながら成果を求めていく環境とは全く違うと思います。
そうして取り組んでいくと、試合に勝ったり、プログラムにサポーターの皆さまが参加してくださって、笑顔でとても喜んでくれているのを見ると、なんだか泣きそうな気持ちになることがあります。それは、最初から最後まで見届けることが出来る側だからこその気持ちだろうと思いますし、当事者として作っていくことの面白さです。
「いずれは地元に。」と思う層は、今の会社で何をすべきか?
‐「いずれは地元に。」と考えている都市部の若手社会人も増えてきています。地方に行く前に、何をすべきだとお考えになりますか?
〝今の会社で与えられている実務をしっかりこなす″ことだと思います。例えば、私は証券会社時代は営業ですから、実際のお金の受け渡しを私は行いませんでした。それを専門にやる人がいて、電話でその人に「決めてきました」と言っておけばよかった。だからそこの仕組みはよくわかっていなかったんです。でも取締役として経営に参画した時に例えば「もっと財務をちゃんと学んでおけばよかった」や「うろ覚えの知識ではなく、もっと正確な知識を身につけておけば…」と思うことがありました。
「どうやって自分の周りの仕事は動いているんだろう」ということが把握できるというのは小さな会社の面白さだと思います。
これから地域に行きたいと考えている方は、ぜひその「自分の仕事を周り」も把握するような仕事をしたら良いと思います。大手企業の仕事は、自分の仕事の範囲さえ担当していれば、それ以外のところは誰かが進めてくれますが、そうではなくて、自分の仕事の前後の流れも理解し、一歩踏み込んだ仕事の仕方ができること。結局、それが「自分自身のウリ」に繋がっていきますし、地域から求められることになっていくと感じました。
地域に行くには「良いタイミング」があると思いますので、「早く行けばいい」ということでもないと思います。地域にとって必要な仕事ができるように、まずは東京でしっかりと経験を積む。これもとても大切なことです。大事なのは「なんとなく完成している」のではなく、「きっちり実務をやりきっている」状態で仕事をすることではないでしょうか。
‐ゴールドマン・サックスがあった六本木ヒルズと、今治では環境的な差も大きいと思います。違いをどのように捉えていらっしゃいますか。
一番は「人が居ないから目立つ」ということかなと思います。東京には優秀な人が沢山いますので、その中で目立とうとすると無理をしないといけない。その無理が続くと歪みが生じていきます。でも地方は、少し尖った人材になれば向こうから見つけてもらえるし、声をかけてもらえるので、無理をする必要がありません。行動すれば誰にでも気軽に会えたり、そこからプロジェクトが進んでいくなどは東京にはない環境だと思います。
「感じる→動く→考える」。行動するまでの順序を変えてみる
‐最後に、転職を考えている読者にメッセージをお願いします。
大学時代から言ってた言葉でもあるのですが、「感じる→考える→動く」の順番を変えてみる、ということが大事だなと改めて感じています。
つまり、「感じる→動く→考える」の順番にする、ということですね。よく考えてから動こうとすると、「こだわり」が出てきてしまうんです。
この会社に参画する前の5年間の模索期は、「感じる→考える→動く」の順番で行動していました。だから農業をやってみたり、友人の会社の起業を手伝ったり、林業の大学院に行ってみたり…この5年間の模索期はすごく大事だったと思います。この5年が無ければ今は無かったとも思っています。
ただ、今、もしアドバイスをするなら「感じて、まず行動する」ことをおすすめします。考えていると、モヤモヤしちゃうんですよね。色々な人の色々な意見を採りいれようとしてしまいますから。そのアドバイスをしてきた人にとっての「正解」はもちろんあると思いますが、それが自分にとっての「正解」とは限りません。だから考える前に行動してみること。そして自分なりの「真実」を見極めること。これが大事なのではと、この会社でやってみて強く思います。
【編集後記】
取材の最後に、他のスタッフの方にもご挨拶をさせていただきました。「記事、楽しみにしていますね。」や「社内で回覧します(笑)」というスタッフからの言葉に対して、「おいおい(笑)」と笑いながら返す矢野さん。前職の経験を如何なく活かしながら、そのスキルを若手スタッフに伝え、時には厳しくチームを創っていく「兄貴分」としての大きな存在感を感じました。
「矢野は、超優秀で本当に仕事ができる。頼りになるんですよ」という岡田氏の言葉からも、強い信頼関係が築かれていることが垣間見えます。名将とそれを支える参謀たちが創るチームの活躍がとても楽しみです。