インタビュー

新しい挑戦に取り組む経営者や、一歩先に中小企業に転職し、新たなキャリアを築いている先輩転職者のインタビューをご紹介します。


【経営者インタビューvol.1(後半)】世界唯一の技術と提案力で「脱・下請け」。地域の「テント屋」さんの驚くべき挑戦とは。

- 書き手:川口枝里子

日本屈指の産業集積地、愛知県。その歴史は江戸時代までさかのぼり、繊維業、木材流通・加工業、さらにはトヨタ自動車株式会社の源流である「株式会社豊田自動織機」も生み出された、たぐいまれなる地域です。

そんな愛知県に本社を置く「株式会社丸八テント商会」は、「世界唯一のデザインカーボン技術」と「下請けから脱する提案力」を武器に世界に勝負をかける「テント屋」さんです。

前編では、株式会社丸八テント商会の創業秘話についてお伺いしました。後編では、その強さと次の挑戦に迫ります。

2015-12-06 掲載

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経営者インタビューvol.1 佐藤 均さま (株式会社丸八テント商会 代表取締役)

-昨年、新しく岐阜にオープンした複合施設「ぎふメディアコスモス」の目玉施設である「市立中央図書館」の内部も担当されたと伺いました。岐阜市肝入りのプロジェクトに参画することになった経緯を教えてください。

<ぎふメディアコスモスって?>
みんなの森 ぎふメディアコスモスは、「知の拠点」の役割を担う市立中央図書館、「絆の拠点」となる市民活動交流センター、多文化交流プラザ及び「文化の拠点」となる展示ギャラリー等からなる複合施設です。
<出展 岐阜市 市民参画部 ぎふメディアコスモス開設準備課 資料()>
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テント屋だからこそできた「前代未聞」への挑戦

「ぎふメディアコスモス」への参画は、「西陣帆布」の成型技術が業界内で高く評価され、それが人づてに建築家の耳に入ったことがきっかけです。私たちが関わらせていただいた市立中央図書館は、担当された建築家が「自然光を最大限採り入れるための“グローブ(巨大ランプシェード)”を造りたい!」と考えたらしいのです。そのような経緯から、思いがけずこのリニューアルに関わることになりました。
ぎふメディアコスモスのプロジェクトは、まさにこの「西陣帆布」の技術があったからこそ始まりました。

図書館なので、本を読むための十分な明るさが必要です。この明るさを確保するために、太陽光を採光し、柔らかく透過させる方法として「グローブ」の構想ができたのです。
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グローブとは「天井から、空中でふわっと浮いて」いる丸い構造物です。大きな「電球のカサ」を想像してもらうと近いかもしれません。天井から差し込んだ光が、この構造物に沿いながら下の部分にまで届くという感じです。この構造を金属でも紙でもなく、「メッシュ素材の布」でやりたいというのが建築家からの要望でした。

これが非常に難しいオーダーでした。布を丸い形で維持しようと思うと、傘のように金属で骨組みを入れなければなりません。ですが、建築家からのオーダーは「骨組みを入れずに造りたい」というものだったのです。話を聞いた日本最大手の企業ですら「うちでは引き受けられません」と言って断ってしまうぐらい、技術的に困難なものでした。

そこで当社の「西陣帆布」の技術に白羽の矢が立ったのです。この技術は「カーボンを熱成形で固め、思い通りの形に形状記憶させる技術」です。建築家からのオーダーのとおり、「布だけで丸い形」を創ることができます。

ところが、依頼がきた時点では、設計図すらありませんでした。建築家はもちろん、当社も含めて「誰も挑戦したことがない」、そんな状況だったのです。

だから、丸八テントだけではなく、色々な人を巻きこむことにこだわって進め、ついに「15メートルの巨大なランプがふわっと空中に浮いているグローブ」を造りだすことに成功しました。私たちは「テント屋」ですが、その枠を飛び越えて仕事をしてきました。西陣織とコラボレーションしてきたことも、そのひとつ。こうした新しい挑戦を続けてきた社員の姿勢と仕事への誇りが、このたびのプロジェクトでも存分にいかされたと感じています。

※実際のグローブについてはこちらをご覧ください。※

未来を見据えていち早く仕掛ける。途上国を救うテントの技術

-「世界唯一の技術」と「それを生かすチャレンジ精神」をお持ちだからこそ成しえた事業ですね。最近は、途上国も建築ラッシュで需要が大きいと聞いています。海外展開の取り組みのほうがいかがでしょうか。

おっしゃる通り、途上国の建築ラッシュが続いています。日本企業も建設にかかわっていますが、「部品は日本で作れるが、組み立てる現地の技術者がいない」という話をよく聞きました。結局、高度なスキルを持った技術者がいないということが一番の問題なんです。
そして日本に目を向けると、東京オリンピックに向けて国内でも技術者が不足しています。そこで当社では現在、フィリピンやベトナムから技術者を受け入れています。海外の意欲ある技術者を研修し、オリンピック需要が満たされるまで働いてもらって技術を伝え、将来それぞれの母国で事業を立ち上げられるようにと考えているんです。

途上国では仕事の種はたくさんあっても、「働き口」自体は多くはありません。ですから“母国で事業を立ち上げられる人”を採用しようとしています。リーダーシップがあり、将来「丸八インド支部」を担えるような人材です。こうした人材が育つことで、インドの熱波を遮熱するテントを駆使した建築物など、過酷な環境に対応した建築物を日本の技術で造れるようになると考えています。

-素晴らしい取り組みですね。こうした取り組みは、20代前半~後半の若い社員が中心となって担っていると伺いました。最後に、こうした若手の人材育成についての考えをお聞かせください。

当社には20代から70代まで幅広い年齢層の人材がいます。若手の育成で一番大事にしているのは「その若者が、若いうちの大事な時間を当社に使ってくれている」という事実を忘れないことです。だからこそ彼らは「本気」で当社に来てくれますし、だからこそ私たちも彼らに本気でぶつかっていくんです。本音も、生々しい現場も、何もかもきちんと見せるようにしています。例えば銀行の融資を受ける打ち合わせに同行させて、社長の目線・立場にたち、一緒に冷や汗をかくような経験を共にする。社長も怒られるし、頭を下げることもあるんだぞ、ということを伝えるのです。そうすると、若手も新たな視点を吸収し、会社のために何ができるかを自ら探し始めます。

こうした若手の活発な動きが、会社のスピード感をどんどん上げていきます。海外とはスカイプで会議もしますし、土曜日に自由参加でアイデア会議なども実施しています。忙しくはありますが、社員はそれを楽しんでいるようですね。みんなが会社や仕事を好きになってくれるのが嬉しいです。

今後は、国内での売り上げ向上を目指した「足場固め」と、海外展開や新しいプロジェクトへの参画を通じた「技術革新」の両方を実施していきたいです。

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「テント屋」の一言では言い切れないほど多彩で、多くのチャレンジをしかける丸八テント商会。インタビューの最中も「これはまだ内緒ですよ」と、次のビッグプロジェクトについて話してくれました。

「されどテント屋ですよ」とにこやかに笑う佐藤社長には、高い技術に裏打ちされた、揺るぎない誇りが感じられます。


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